砂民
- 吉田翠
- 2020年12月16日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年1月23日
砂民
月が大きな夜に思う
その黄金の下にあるものを
いにしえのべドウィン
遊牧の民の足跡
漆黒の砂漠で
冷えた砂が波立ち震えるのは
いったい誰のせいなのか
べドウィンが愛した家族の砂海
ウードの弦を爪弾く人に拒まれた
何を知りたいのかと
遥か昔
絹の道しるべを背中にしょったひとりの男が
祈りの言葉を口にした
男が縛りあげたものは 伝統と争い
男がもたらしたものは 繁栄と不自由
ひと足ふた足と
やおら進む時間に引き摺られ
気高き炎を内に秘めたまま
やがて彼らは遊牧を見限った
べドウィンの家族が捨てたものは
砂に埋まり幻とささやかれたのだろう
気まぐれなラクダが空を見る
ご覧
かつて手を差し出せば届く程だった黄金の月
今は砂だけが砂だけが広がり
怖れにも似た純朴な涙が
儚い夢を閉じようとしている
そしてわたしは今日も月を眺めながら
見た事の無い記憶を 遠ざけた
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