言霊
- 吉田翠
- 2020年12月16日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年3月26日
言霊
言葉が羽を手に入れて
一気に空高く駆け上がる
冷たい風に任せることもできずに
自分の意思を示そうとすると
煽られる
それでも言葉は嬉々として突き進んでゆく
言葉を失ったわたしは
ぐずぐずと手をつきながら地べたをはい回り
踏まれるほどにちいさくまるまっても
ニヤっと笑った靴底に
蹴り飛ばされる
見上げた空にはただ風が渦を巻くだけ
なんてこと なんてことでしょう だからあの時、包んだ真綿を剥がさなければ わたしは安心して……
安心して…… それは違う 貴方、それは違うわ
言葉はね
もともと意思を持つ日を知っていただけ そして貴方は
仮にしつらえられた安直な優しさの波間に 溺れていただけ 溺れていたいと願ってただけなのよ
ヒマラヤンブルーの青いケシの花のように
真綿など最初から幻想だと知っていたでしょう さぁ
顔をあげてひとりで呼吸ができることを知りなさい わたしの中のわたしの声が見限り遠ざかる
その前に
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