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押し花

  • 執筆者の写真: 吉田翠
    吉田翠
  • 2023年2月24日
  • 読了時間: 1分

更新日:2024年1月23日

押し花



古くなった名作文学全集の

黄ばみの入った頁をめくる

そこにはさんだ一輪の押し花が

結局季節を見送った


夏に始まり夏に終わらせた

ひとりの少女の純欲は

年月を閉じ込めた古本の匂いのように

か細い糸に絡みつく遠い出来事


花の汁跡が残る紙を外せば

挿絵から立ち上る

アルト・ハイデルベルクの

青臭い約束が胸に沁みる


できあがった押し花を

どうしようと考えていたのか


窓の外

まだ強い影を作る欅が葉を揺らす


我に帰る前

少し涼しい風がかき鳴らす


夏の残響





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