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思い違い
- 吉田翠
- 2022年1月23日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年1月23日
思い違い
だから切ったのに あの人もこの人も口々に可哀想だと言った いいからわたしの腕の中で ゆっくりおやすみなさいな あなたが大切にしてきた 繭から生まれた艶やかな髪が 誰かに奪い取られる前に隠してしまうことは 悪い事なんて思い違いなのよ 人形の髪が伸びないなんて いつの時代の幻想か ビロードの緞帳の中で宝箱を見つめる そうやってわたしは大人になる事を いつまでも拒んで拒んでこの場所で 白いものが混じる髪を梳いた
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すべて表示夕顔の咲く頃 陽の落ちる少し前 空に浮かぶ白が仄かに色付き 諦めの悪い熱気が くちびるを噛んだ ひとり物思いに沈む時 打ち水された路地裏をゆく ひとりの人 藍染の浴衣に ざっくり締めた帯 鬢にかかる後れ毛を 少し揺らして 振り返る人 微笑んだのかどうか そこには開きかけた...
白波の浜 さらわれて立つ 足元の儚さは 繰り返し繰り返し 寄せては返す 波に消える我が身の影絵 じっと見つめる先には 一点の答えすらない ただ碧と青の境界を 染め落ちるしろがねの陽 寄せては返す罪と罰 この身がさらわれてさえゆけば 果たして 消えてなくなるものなのか...
花の吹雪く下で 桜の枝先につくほどけた花びらに 去年の花を思い出す 風の揺らぎ いくらか水を含んだ空気の重さ 霞の切れ切れからのぞく空の色 ヒダにしまった傷のいたわり こうしてそれらを引き連れて 来る年来る年にやってくる 積み重なった去年の花 桜の枝先につくほどけた花びらに...