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海にきく

  • 執筆者の写真: 吉田翠
    吉田翠
  • 2024年4月16日
  • 読了時間: 1分

海にきく



人の作る喧騒が

幕を下ろした浜に座り

何時間もただ聞いていた


見ない、聞かない、感じない

わたしにのしかかるものを封印して

追い払って閉じた目で

塞いだ耳で

からにした心で

海に広がる水音を

何時間もただ聞いていた


風を受け入れた海はその証に立ち上がり

知らしめるようにしぶく鳴動と静寂 


海に広がる水音

わたしはどこに行こうと言うのか

何を受け入れるのか


人の声が愛おしくなる少し前に

その昔羊水の中にいたことを

無い記憶の中で

思い出した


そうだもう一度だけ振り返り

この音を胸に

わたしは風を受け入れてみよう






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