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月の影 詰問
- 吉田翠
- 2022年1月23日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年1月23日
月の影 詰問
青白い月影が 目立ち始めた皺を晒す 満ち足りた夜の数々は もう望むべくもなく 漆黒のカラスがよこす 憐れみの眼差し あなたがいなくなってから 空っぽの鳥籠のような静かな時間に 仮縫いの服が手足を引っ掻く音がする 戸棚に溜まった白い埃は 鈍い光を帯びて 掠れてゆく口笛だけのメロディー 何度も何度も声を殺した 艶を失った髪を噛むように 望まないことを望んだのは わたしのほう でも
どっちにしたって憐れみは慣れっこ 月が欠けた夜に ねえマリー 帰ってくるでしょ
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海にきく 人の作る喧騒が 幕を下ろした浜に座り 何時間もただ聞いていた 見ない、聞かない、感じない わたしにのしかかるものを封印して 追い払って閉じた目で 塞いだ耳で からにした心で 海に広がる水音を 何時間もただ聞いていた 風を受け入れた海はその証に立ち上がり...
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