ただひと言吉田翠2025年12月19日読了時間: 1分ただひと言葉夕刻前、低く広がる雲の下、ぽつりと落ちた雨粒。子犬を連れた老婦人が、立ち止まりよく働いた手の平を差し出した。通りすがりのわたしに向かって、降って来ちゃったわねとひと言。まるで独り言のような、それでいて微かな喜びを乗せたような声の調子。そうですねと言葉を返し、会釈をして互いに別方向に歩を進める。もしかしたら人にむけた今日初めての言葉だったのかも知れないと、振り返りその背中をわたしは見つめた。