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ななつの祝い
- 吉田翠
- 2月28日
- 読了時間: 2分
更新日:3月2日

ななつの祝い
さぁさぁお通りなされ通りなされ
かわいいべべに初めての紅。健やかに大きくなりなされとななつの子の手を引いて向かう先は鎮守様。ぐるりと森に囲まれた、奥深いところに御坐します。
道らしきものを挟んで両脇には、そろそろ色も見ごろな銀杏の大木。鎮守の杜にそびえ立つ、見事な銀杏の枝ぶりは、ここから先の道をたやすく通さぬための番人のよう。
赤子の時も三つの祝いの時も、同じ小道を通りました。その度ごとと同じよう、母は大銀杏に頭を下げて言いました。
この子の祝いです。どうぞ通してくださいまし。
いきはよいよいかえりはこわい
鎮守様にお札を納めると、森を見渡し母はふっとため息ついて言いました。
「ここからの帰り道は手を繋いで一緒に歩くことはならぬのです。もし一緒に歩けばあの大銀杏は道を通してくれません。ひとりでゆくのですよ。ここで見ています。ここでひとり歩く姿を見ています」
ななつの子はうなずくと、鎮守の杜のひとり元来た道を歩き始めました。大銀杏の近くまで来ると子は一度だけ振り返りましたが、遠く見える母はぴくりとも動きません。
秋にななつの童はどこいった
大イチョウの木の下で童の姿が消えました
いきはよいよいかえりはこわい
ななつの童はどこいった
ななつの童は秋に娘になりました
たわわに実った銀杏が一瞬の風に揺れました。初めて締めた帯に、黄色く染まった葉が一枚、また一枚とハラハラ舞い降りて、それはまるで降り続く淡雪のようです。
杜の中を続く道。子の姿が見えなくなっても尚、母は愛し子が行った道の先を、じっと見つめていました。
鎮守の杜は静かに、今年の役目を終えました。
いきはよいよいかえりはこわいこわいながらも通りゃんせ通りゃんせ