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ガラス細工の夜の中で
- 吉田翠
- 2020年12月18日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年1月23日
ガラス細工の夜の中で
眠りの浅い夜に遠い昔の夢を見たの
いつも腕の中に抱きかかえていたお人形が ベッドから転がり落ちて 床に仰向けになったまま微笑んでいるから 寂しくて悲しくて
ひとりぼっちの部屋の中で 泣いている女の子
怯えて肩を震わせて 急いで拾い上げたお人形が まるで自分みたいに思ったから 薄青い月明かりが差し込む部屋の中で 泣いている女の子
眠りの浅い夜に見る夢は 心細いガラス細工のようね
毛布をぎゅっと掴んで離さない女の子の頬を そっと手で包み込んで 「おやすみ」
眠りの浅い夜に欲しいのは 額に落ちる震えるほど静かな唇 寝返りをうちながら今夜もまた 毛布の端を握りしめた
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