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海原より来たりて
- 吉田翠
- 2020年12月16日
- 読了時間: 1分
更新日:2024年1月23日
海原より来たりて
それは
色も匂いも 言ってみれば形さえも
不確かな
モノ
姿の全てが瞳であるかのように 見据える
歩くべき大地を吸うべき空気を ひたと見据える
それがおどろおどろしい現実だとしても たおやかな流れだとしても
ただ見据えるものに手を差し出し 歓喜の衣に包まれて 歩き出す
生まれるものは
海原から静かに 静かにやってくる
満ちる潮に促され 意思がこうべを擡げた時 目を覚まし 命を宿した己の身体に 少しの驚きを見せながら やがてそれも 記憶の中に沈む ただ見据えるものに手を差し出し 歓喜の衣に包まれて 歩き出す 海原を振り返ることもなく 全ての生誕は 始まりを喜び その一歩を そして次の一歩を大地に乗せる 還るその日まで
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