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独白 秘すれば花

  • 執筆者の写真: 吉田翠
    吉田翠
  • 2025年12月17日
  • 読了時間: 2分

独白 秘すれば花



ゆく河の流れは絶えずして

しかももとの水にあらず

(方丈記)



元清は再びこの賀茂川の流れを目にすることは叶わないと思っていた。老いたこの時に再び帰洛を許され目にする賀茂川。

絶え間のない流れを目にしても、もはや動じるものでもなかろうと元清は思った。


まるで源氏の君と感嘆される程の輝く容姿は、人々を魅了した。そして、若くして父より観世大夫を受け継ぎ、観世座を率いた元清。


時の権力者からの寵愛は妬みを生む。散楽者との嘲りは懐に抱く花の肥やしだったのか。歴史に名を刻むほどの芸の高みとは、いかなる場所にあったのか。

猿楽と田楽を融合させ幽玄の美を極め続けるも、時の無常は要らぬものを連れてきた。

庇護を失い我が子を失い、座すら奪われ佐渡に流されても尚、目にするでもなく、枯れるでもない花に真を問うた日々。

来た道は戻れぬもの。

したためた書の数々に虚しさを覚えつつも、容易には手を離せぬ元清であった。


 往年の栄華を失った姿をあらわにする、澄んだ水では無い。その下で水を送る土と石を、元清は見つめていた。



秘すれば花 独白



我らは血で動くのか。


あの世とこの世を繋ぐ宿神よ。

翁の目に宿る河勝の神霊は、芸の徒を何処に連れて行こうとも、それはこの川の流れに逆らうものでは無かった。


こころの如何なるものをも面に委ね、魑魅魍魎の世俗の中で挑んでいた相手は夜叉の血か、あるいは宿神か。


翁の面を付ければ付けるほどに、宿神が容赦なく鼓を打ちならした日々。しかし今となってはわたしが立つ舞台は無い。


関白家に藤若の名を賜り、将軍家の寵愛を受けたのは己のためだったのか、座の行く末のためだったのか。

時の権力に翻弄されるも、それすら血により動く者の宿命だったのか。

嫡子を失い佐渡の地へ流され、時の移ろいの中でも宿神翁の謡う詞章は低く低くわたしを誘い、この川底に身を沈めた。


川底から眺めるこの世こそが、はたして山の遥か上、空から臨む仮の現世の、真の姿だったと悟った。


現世と常世の淵におわす宿神よ。


鬼夜叉として生まれてよりこの我が身に流れる血は、宿主を間違えなかったと言えるのだろうか。


いずれわたしがその足元に置く色なき花は、まこと花と言えるのだろうか。


宿神の翁よ。

いつまでわたしを離さぬのか。



世阿弥陀仏




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