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祭 彼方に

  • 執筆者の写真: 吉田翠
    吉田翠
  • 2024年2月1日
  • 読了時間: 2分

祭 彼方に



☆神話と遠い記憶の祭り


声ー頂きより


足元の村ではぎっしりと実の詰まった稲穂が、陽の光を受けて輝いている。

これを見ると、渡る風の匂いすら違うように思うのだから不思議だ。


収穫が済めば、かつては火を噴いた畝傍の麓あたりで、装束を纏った者達が織りなす、厳かで重々しい祭りが見られるのだろう。


水を張った土に苗を植え付けてより刈り入れまで、およそ稲を育てる人間の働きは変わらない。

変わったのは祭りだろうか。

新しい神々なるものが、ぽつりぽつりと姿を見せるようになってから、随分と時も経つ。

かつては鐘を鳴らして地に祈りを捧げていた老若男女。

敵に備え濠を巡らせたムラの結束と、米のたわわに実るを邪魔するものは、容赦なく打ち払ってきた。


稲をそだてる大地こそが、精霊に守られた偉大なる主と呼ばれた。

祭りに始まり祭りに終わる暮らしの中で、雨を降らせ光を注ぐ天にも主を見出した時に、あの青銅の鐘は音が低く鈍った。


やがて戦に明け暮れた大地。そこに埋められたままの鐘と剣を、人間どもが放置した時に現れた小高い丘。

王なる者が眠ると言う。

丘を見上げればその先は遥かな天。闘いの果てに、天の主が地の主を凌駕したらしい。


村の祭りはすっかり様変わりをしたように、青銅の鐘は鳴らず、精霊達は新しく各々の神なる存在を担ぐようになった。いや、主の中には、ただ形を変えて神になったものもおるのだろう。


しかし、その昔の古き主とやらですら知らぬ祭りが、かつてはあったのだ。

掟のままに歯を抜き、美しい縄の紋様を扱った人間達。

猿の骨でできた耳飾りと土の面を付けた、呪術を扱う者がおさめた祭りだ。


火を焚き、酒を飲み、力を誇示する男と、着飾った女が欲情のままに戯れる事もあった。

快楽を求めた交わりが、子をなす事に繋がると知った者がどの程度おったのか。

野蛮と眉をひそめるな。通った道だ。


時は移る。鳥が木々に休むのも束の間か。

人を生かし、闘いを招いた。

頭を垂れる稲にいかなる罪があろうか。

世の必然と知恵は、新しい祭りと、花鳥風月に血の通った心を託す、歌をも作り上げようとしていると聞く。

万の昔からここを動かずにいたわたしは、いつからか、三輪山と呼ばれるようになった。 


人間とはおもしろきものだ。


どうやらわたしも、いつの時からか、神とやらになったらしい。


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