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ケメトを運びし悠久の流れ

  • 執筆者の写真: 吉田翠
    吉田翠
  • 2月18日
  • 読了時間: 2分

更新日:3月5日


ケメトを運びし悠久の流れ

 



青の川 白の川

今年の水かさはいかに


わたしは大地

手を伸ばせば掴み取れそうな月と

慈悲深く猛々しい太陽に抱かれたわたしの身体

静かに氾濫の時を待ち

ケメトを迎え黄金の花を咲かせよう



おとうさん、今年もたくさんの作物が取れるのかな?

そうともさ、息子よ。

豊穣の神ハピ様はきっと水と土を運んでくださる

ケメトはどこから来るの、おとうさん?


息子よ。

異国の地、この川の上流に青と白という力強き者がいる。

彼らが年に一度の破天荒な振る舞いを始めると、おそらくナイルの化身ハピ様が目覚め、黒き土ケメトを喰らうのであろう。

上流では破壊をもたらすやも知れぬ。

けれどこの地には、無くてはならぬ荒々しき川旅だ。


黒き土が満ちた時、それを迎えた大地は隅々まで力をたぎらせるだろう。

氾濫がなければ土は枯れ作物は育たぬ。


忘れるな息子よ。

じいさんのそのまたじいさんの、そのもっともっと昔から、この乾いた大地に恵みをもたらすナイルの力を。

破壊の果てに我らが受け取る恩恵を。


息子よ、忘れるな。



わたしは大地

赤く空が染まる頃

悠久の流れを前に祈る人々の姿をわたしは見た

差し出す腕はあたかもくうを摑まえるかのごとく

多いなる氾濫を願いハピと共にあらんと


ケメトを迎える時わたしは喜びの歌を奏でよう

人々の目の前に

目にも鮮やかな黄金の花を咲かせよう

黒き豊潤な土を纏うわたしの身体を

たわわの麦穂で埋め尽くそう

尽きることなく流れる大河よ

青と白の恵みを

残酷なまでに一手に引き受けるナイルよ


静かにその時を迎えよう

わたしは大地

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