ひとり語り 桔梗・葵
- midoriandhana
- 5月7日
- 読了時間: 2分
更新日:5月15日
【桔梗】
好奇に満ちた視線などどうということではない
請われた夜に実を落としても
わたしのこころに触れることなど
どこの誰にもさせはしない
わたしは舞う
白い手の中に哀れを隠して
今宵も見事に
桜を吹雪かせてご覧にいれましょう
それでも
夜空に咲く桜は月明りがあってこそ
細く輝く月の光が
今宵は何処で何を照らしているのやら
想う人は山を越え見知らぬ空に輝くならば
せめては舞いの残り香をすくい取って届けたい
丈夫な櫂を持つ星の川を登る小舟が欲しい
さだめに抗ったこの身に舟を
蔑むその視線と引き換えに
川のほとりにたたずむ者は何処へなりと行けという
流れ流れて焦がれる命の
皮膚をすり減らすまで
【葵】
今頃桔梗はどうしているのだろう。
風の便りでは、高貴な方の傍で華麗な舞いを見せていると聞いた。三日月と言われたわたしは、もうすっかり舞うことを忘れたが。
本当にこれで良かったのだろうか。
桔梗の中に横たわる情の色を知ったわたしは、自分の側から離れるようにと諭した。そうでもしなければ、二人とも深く泥の沼に沈んでしまうと思ったからだ。
わたしも村を出て八年。ようやく船頭として食っていくことができるようになった。
物珍しい秘め事を好む、多くはない客の相手と舞人として、半ばおなごのふりをして生きてきた身体では、ひとかどの暮らしができるようになるために、無為な時間も多く過ごしてきた。
卑しい者と蔑む好奇な陰口よりも、呪ったのは血だ。
桔梗が本当の妹であれば、どうだったのだろう…… いや、そんなことは言ってみても始まらない。わたしは気付いてしまった。木の葉で包み、石の重りを付けて川底に沈めても、幾たびも浮かび上がってくる自分の気持ちに。
わたしは生涯、誰をも娶ることはないのだろう。